「2028年、大阪市の斎場は”満杯”になる」― 市が公表した火葬件数予測の衝撃

「人が亡くなったら、すぐに火葬できるもの」。多くの方がそう思っているのではないでしょうか。
ところが今、その”当たり前”が揺らぎ始めています。東京や横浜では、亡くなってから火葬まで1週間以上待つ「火葬待ち」がニュースになることも珍しくなくなりました。
では、大阪はどうなのか。
実は大阪市自身が、公式資料の中ではっきりとこう書いています。「令和10(2028)年度には、現行の受入可能件数である約39,000件/年を超過」――。
つまり、何も手を打たなければ、2028年度には市立斎場の年間の処理能力を火葬件数が上回るということです。2028年といえば、もう目の前。この記事では、大阪市が公表している一次資料をもとに、大阪の斎場で何が起きようとしているのか、そして私たち市民や遺族は何に備えればよいのかを、わかりやすく解説します。
大阪市が自ら認めた「2028年問題」とは
根拠は「大阪市立斎場整備事業基本構想」
今回の話の出どころは、大阪市環境局が令和3年(2021年)6月に策定した**「大阪市立斎場整備事業基本構想」**です。噂や推測ではなく、市が自らの斎場の将来を分析した公式の計画文書です。
この構想の中で、大阪市は次のような見通しを示しています。
- 将来人口は今後、徐々に減少していく
- 一方で、火葬件数は増加を続ける
- 2028年度には、現行の受入可能件数(約39,000件/年)を超える
- その後も増え続け、ピークの2040年度には約44,000件/年(推計値43,896件)に達する
「人口が減るのに、火葬は増える」。一見すると矛盾しているようですが、これこそが高齢化が進んだ都市の現実です。人口のボリュームゾーンである団塊の世代が80代・90代を迎え、亡くなる方の数そのものが増え続けているのです。
年間件数で見るとどれくらい増えるのか
基本構想に掲載されている推計値を整理すると、次のようになります。
| 年度 | 年間火葬件数(推計) | 1日あたり平均 | 冬の繁忙期・1日最大 |
|---|---|---|---|
| 2020年度 | 約35,900件 | 99件 | 109件 |
| 2024年度 | 約38,000件 | 105件 | 115件 |
| 2028年度 | 約39,600件 | 109件 | 120件 |
| 2034年度 | 約42,400件 | 117件 | 130件 |
| 2040年度 | 約43,900件 | 121件 | 134件 |
※大阪市立斎場整備事業基本構想(令和3年6月)の推計値をもとに作成。実際の件数とは異なる場合があります。
2020年度から2040年度までの20年間で、年間の火葬件数はおよそ8,000件、率にして2割以上増える計算です。
本当に怖いのは「冬」――繁忙期にはすでに余裕がない
年間の数字だけでは見えないリスク
「2028年に超える」と聞くと、「それまではまだ大丈夫」と感じるかもしれません。しかし、基本構想の数字をもう一歩踏み込んで読むと、別の側面が見えてきます。
火葬の需要は一年中一定ではありません。亡くなる方が増える冬(1月前後)に大きく集中するのです。大阪市の資料でも、年間の1日平均とは別に、「繁忙期(冬期)の1日最大火葬件数」が示されています。
この冬期の最大件数と、市立斎場全体の「1日の受入可能件数」を比べてみると――
- 計画上の1日の受入可能件数:107件(2027年度まで)
- 冬期の1日最大火葬件数(推計):2020年度で109件、2024年度で115件
つまり、計画上の数値を素直に読む限り、冬のピーク時にはすでに1日の受入能力を上回る日が想定されているということになります。年間で見れば「まだ超えていない」けれど、寒い時期の最も混む日には、すでに綱渡りの状態なのです。
「火葬待ち」は連鎖する
火葬が1日でさばききれなければ、その分は翌日以降に回ります。翌日にも新たな火葬の申し込みがあるため、一度遅れが生じると、待ちが雪だるま式に連鎖しやすくなります。
さらに、火葬場が休みになる日の翌日には申し込みが集中しやすいという傾向も、全国の自治体資料で指摘されています。年末年始のように斎場の稼働が限られる時期が重なれば、待機日数はさらに延びかねません。
大阪の「火葬待ち」は、2028年に突然始まるのではなく、冬を中心にすでに忍び寄っている――そう捉えておくのが現実的でしょう。
大阪市の5つの市立斎場、その実態
半世紀を超える施設も
大阪市には現在、5か所の市立斎場があります。
| 斎場名 | 所在区 | 主要建築部分の建設時期 | 炉数 |
|---|---|---|---|
| 瓜破斎場 | 平野区 | 1974年(昭和49年) | 30 |
| 北斎場 | 北区 | 2001年(平成13年) | 20 |
| 小林斎場 | 大正区 | 1979年(昭和54年) | 10 |
| 鶴見斎場 | 鶴見区 | 2006年(平成18年) | 8 |
| 佃斎場 | 西淀川区 | 1934年(昭和9年) | 4 |
※大阪市立斎場整備事業基本構想より
最大の瓜破斎場は建設から50年以上。佃斎場に至っては、主要部分の建設が昭和9年、つまり90年以上前です。基本構想でも、各斎場の建屋・設備の老朽化が進んでいることが課題として明記されています。
火葬の需要が増える一方で、それを支える施設は年々古くなっていく。これが大阪市の斎場が抱える”二重の課題”です。
大阪市はどう対応しようとしているのか
第一弾は「小林斎場」の建て替え
もちろん、大阪市も手をこまねいているわけではありません。基本構想では、まず2028年度までに何らかの整備を行って受入可能件数を増やし、その後も2040年度のピークに向けて順次整備を進める方針が示されています。
その第一弾が、大正区の小林斎場の建て替えです。
- 「移転新設」ではなく現地での建て替えを選択(2028年度に間に合わせるため)
- 受入件数を増やすため、火葬炉の増設(増炉)は必須と位置づけ
- 収骨室を設けて個室化し、1件あたりの運用時間を4時間から3時間に短縮する計画
- 整備・運営には民間の資金やノウハウを活用するPFI手法を導入
この小林斎場整備運営事業は、2023年12月に落札者が決定しています。個室化によって遺族のプライバシーが守られ、落ち着いてお骨上げができるようになる点は、利用者にとっても大きな変化です。
それでも「楽観」はできない理由
ただし、施設整備には時間がかかります。また、基本構想の推計は2021年時点のものであり、その後の死亡数の動きや工事の進み具合によって、実際の状況は変わりえます。
加えて、受入能力が増えたとしても、冬の集中や休場日明けの混雑といった”波”そのものがなくなるわけではありません。「斎場が増強されるから安心」ではなく、「それでも混む時期はある」という前提で備えることが大切です。
周辺の市でも同じ動きが
斎場の整備が課題になっているのは大阪市だけではありません。たとえば東大阪市では、既存斎場の老朽化と高齢化に伴う火葬需要の増加に対応するため、火葬炉12基を想定した新斎苑の整備が検討されています。大阪府内の各地で、「斎場をどう確保するか」が共通のテーマになりつつあるのです。
「混んでいたら市外の斎場へ」は簡単ではない
「大阪市内が混んでいるなら、近くの市の斎場を使えばいい」と考える方もいるかもしれません。しかし、公営斎場の多くは住民向けの料金と市外料金を分けています。
たとえば枚方市の斎場では、大人の火葬料金が市内料金20,000円に対し、市外料金は120,000円。実に6倍です。予約の取りやすさにも違いが出ることがあるため、「とりあえず市外へ」は費用面でも大きな負担になりえます。
火葬待ちが長引くと、遺族に何が起きるのか
火葬まで日数が空くと、遺族の負担は思った以上に大きくなります。
1. 安置場所の確保が必要になる
ご遺体を自宅や葬儀社の安置施設で、火葬の日まで保つ必要があります。自宅で安置する場合は、部屋の温度管理や付き添いの負担がかかります。
2. 費用が膨らむ
安置施設の利用料やご遺体の保全に使うドライアイスなどは、日数に応じて費用がかさむのが一般的です。「火葬まで数日延びただけで、想定外の出費になった」というケースは少なくありません。
3. 心と体の疲れが長引く
葬儀の日程が決まらないまま日が過ぎていくと、親族への連絡や仕事の調整も難しくなります。悲しみの中で「宙ぶらりん」の時間が続くことは、遺族にとって想像以上のストレスです。
4. 故人のお顔の変化
日数が経てば、どうしてもご遺体の状態は変化していきます。最後のお別れの場面で「元気なころの面影で送ってあげたかった」という思いを抱える遺族もいます。
大阪で”そのとき”に慌てないために、今できる5つの準備
火葬場の混雑は、個人の力で解決できる問題ではありません。しかし、備えておくことで負担を軽くすることは十分に可能です。
① 信頼できる葬儀社に事前相談しておく
いざという時に一から探すのでは、冷静な判断ができません。元気なうちに、大阪市内の斎場事情に詳しい葬儀社へ相談しておけば、混雑時期の見通しや安置の選択肢を事前に把握できます。
② 安置場所の選択肢を確認しておく
自宅で安置できるのか、葬儀社の安置施設を使うのか。安置施設を使う場合、1日あたりの費用や面会の可否はどうなっているのか。見積もりの段階で必ず確認しておきましょう。
③ 「日数が延びた場合」の費用を見積もりに含めてもらう
葬儀の見積もりは、「火葬が予定どおりに行える前提」で作られていることがあります。安置日数が延びた場合に何がいくら追加になるのかを、あらかじめ聞いておくことが、後のトラブル防止になります。
④ 冬・年末年始は「待つかもしれない」と心づもりをしておく
高齢の家族がいる場合、特に冬場は日程に余裕を持った心構えが必要です。遠方の親族が集まる予定なども、柔軟に調整できるようにしておくと安心です。
⑤ 家族で「どう送りたいか」を話しておく
火葬待ちの間、どのようにお別れの時間を過ごすか。葬儀の規模や形式をどうするか。こうしたことを家族で共有しておけば、限られた日程の中でも迷わず決断できます。
まとめ:「満杯」は、他人事ではなく”自分ごと”
大阪市が公表した資料が示しているのは、次のような現実です。
- 2028年度、火葬件数が市立斎場の年間受入可能件数(約39,000件)を超える見込み
- 2040年度のピークには約44,000件に達する見込み
- 冬の繁忙期には、計画上の数値ですでに1日の受入能力を上回る日が想定されている
- 斎場の多くは老朽化が進み、整備が急がれている
「多死社会」という言葉は、どこか遠い話に聞こえるかもしれません。しかし、それは大阪の斎場の予約表に、すでに数字として表れ始めている現実です。
大切な人を、慌ただしさの中ではなく、落ち着いた気持ちで見送るために。今日の記事をきっかけに、ご家族で一度「もしものとき」の話をしてみてはいかがでしょうか。

